一人称と三人称の違いは?小説の視点の選び方と書き方【例文つき】
小説の視点は、大きく分けて4種類です。一人称は「私」「俺」など語り手自身の目で、三人称は「彼」「彼女」や名前で、外から語ります。
| 視点 | 語り手 | 読者にわかること | 向いている話 |
|---|---|---|---|
| 一人称視点 | 主人公(または脇役)が「私」で語る | 語り手が見て、考えたことだけ | 心情が見どころの話、ミステリー、日常もの |
| 三人称一元視点 | 作中にいない語り手が、ひとりの人物に視点を固定する | その人物が見て、考えたことだけ | 迷ったときの基本形。長編にも短編にも |
| 三人称多元視点 | 場面ごとに、視点人物を切り替える | 視点人物それぞれの内面 | 群像劇、複数の勢力が動く話 |
| 神の視点(三人称全知) | すべてを知る語り手 | 全員の内面、過去、未来 | 大きな時代や一族を描く話、寓話 |
どれを選んでも、1つの場面では1人の視点を守るのが基本です。違いがいちばんわかりやすいのは、同じ場面を書き比べたときです。
同じ場面を4つの視点で書き比べる
場面:放課後の教室。美術部の真帆が、幼なじみの葉山に転校することを打ち明ける。
一人称視点(真帆)
言うなら今日しかなかった。 「あのさ、来月、引っ越すの」 葉山は筆を止めた。止めただけで、こっちを向かない。怒っているのか、驚いているのか、背中からはわからなかった。
真帆の不安が地の文にそのまま出ます。葉山の気持ちは、真帆が推測できる範囲でしか書けません。
三人称一元視点(真帆に視点を固定)
言うなら今日しかない、と真帆は思った。 「あのさ、来月、引っ越すの」 葉山は筆を止めた。止めただけで、振り向かない。怒っているのか、驚いているのか、真帆には背中から読み取れなかった。
情報の範囲は一人称と同じです。「真帆は」と名前で語るぶん、読者は少しだけ引いた位置から真帆を見ます。
三人称多元視点(場面の切れ目で葉山に替わる)
葉山は筆を止めた。振り向けば、顔に出る。だから、乾きかけた空の青を見つめ続けた。 「……そっか」 それしか言えない自分に、葉山は腹が立った。
前の場面で真帆の視点、空行で区切ったあと葉山の視点、と切り替えます。2文目の「振り向けば、顔に出る。」のように、三人称でも視点人物の考えを地の文に溶け込ませて書けます。読者は、真帆が知らない葉山の気持ちを知っています。
神の視点
真帆は、言うなら今日しかないと決めていた。葉山は、その話をもう母親から聞いていた。知らないふりをするつもりで、筆を止めた。二人がこの教室で並んで座るのは、これが最後になる。
二人の内面と、二人とも知らない先のことまで書けます。そのぶん、どちらかに深く入りこむ読み方はしにくくなります。
一人称視点の書き方とコツ
一人称は、語り手の目線と考えを、読者にそのまま追体験させる書き方です。
- 地の文も語り手の言葉で書く:高校生の主人公なら、地の文も高校生の語彙で書けます。くだけた言い回しや心の中のツッコミが、そのまま語りの個性になります。異世界転生もののように、主人公の反応が見どころになる話と相性がよい書き方です。
- 語り手が知らないことは書けない:敵の計画、別の場所で起きている事件は、語り手が見聞きするまで書けません。誰かの話を聞く、手紙を読むなど、語り手に情報が届く場面をつくります。
- 自分の顔は見えない:「俺は苦笑いを浮かべた」のように、語り手に見えないはずの自分の表情を外から描写してしまうのは、一人称でよくある視点のミスです。「顔が引きつる」「頬が熱くなる」のように体の感覚で書きます。外見は、他の人物のセリフや反応で伝えます。
- 語り手は脇役でもよい:シャーロック・ホームズのシリーズでは相棒のワトソンが、江戸川乱歩『D坂の殺人事件』では「私」が、名探偵の推理を横で見ている形で語ります。主人公の頭の中を見せずに済むので、天才型の主人公や謎の多い人物を描くときに向いています。
三人称視点の書き方とコツ
三人称一元視点:初心者の基本形
ひとりの人物(視点人物)に視点を固定し、その人物が見たもの、聞いたこと、考えたことだけを書きます。
- 視点人物以外の内面は、推測の形で書く:「葉山は怒っていた」と書くと、視点が葉山に移ります。真帆の視点なら「葉山は怒っているようだった」「怒っているのかもしれない」と書きます。
- 視点人物の表情と外見は、他の人物の目を借りる:一人称と同じく、「真帆は悲しげな目をした」のような、視点人物自身には見えない表情の描写は避けます。
- 地の文は書き言葉を基本にする:視点人物の感情が動く場面では、その人物らしい言葉選びを少し混ぜると臨場感が出ます。混ぜすぎると一人称と区別がつかなくなります。
三人称多元視点:切り替えは場面の切れ目で
視点人物を切り替えるのは、章や場面の切れ目だけにします。空行や「*」などの区切りを入れ、切り替えたあとの最初の一文で、誰の視点かがわかるように書きます。
* 葉山がその手紙に気づいたのは、真帆が転校した翌朝だった。
視点人物が多いほど、読者は誰についていけばよいか迷います。全員を同じ重さで書くより、視点人物を2〜4人に絞ると追いやすくなります。登場人物が多い群像劇の整理は群像劇でキャラが多すぎる?を参照してください。
神の視点:語り手が前に出る
語り手がすべてを知っていて、誰の内面にも入れます。芥川龍之介『羅生門』には「作者はさっき、『下人が雨やみを待っていた』と書いた。」という一文があり、語り手が物語の外から読者に話しかけています。語り手の存在そのものを味わわせたいときに使う書き方です。語り手が前に出すぎると「作者の顔出し」に見えるので、初心者が最初に選ぶ視点としては難しめです。
「視点がブレる」とはどういうこと? 直し方の例
視点のブレ(視点の混在)は、ひとつの場面の中で、断りなく別の人物の内面に入ってしまうことです。三人称一元視点で起きやすい失敗です。
× 真帆は窓の外を見ていた。葉山はその横顔を見て、きれいだと思った。真帆は、早く帰りたかった。
2文目は葉山の内面(きれいだと思った)、3文目は真帆の内面(早く帰りたかった)で、ひとつの場面で二人の頭の中に入っています。どちらの視点の場面かを決めて、もう一方は外から見える範囲で書きます。
○(真帆の視点) 真帆は窓の外を見ていた。横顔に、葉山の視線を感じる。早く帰りたかった。
書き終えた場面ごとに、次の3つを確かめます。
- この場面の視点人物は誰か、一人に決まっているか
- 視点人物が知り得ないこと(他人の本心、見ていない出来事)を書いていないか
- 視点を切り替えたなら、場面の切れ目で、区切りを入れているか
一人称と三人称、どっちを選ぶ?
| 確かめること | 一人称が合う | 三人称が合う |
|---|---|---|
| 読者に体験させたいもの | 主人公の心の動き、驚き、葛藤 | 出来事の全体像、人物どうしの関係 |
| 物語に必要な視点人物 | 1人 | 2人以上 |
| 主人公がいない場面 | ほとんどない | 物語に欠かせない |
| 謎の扱い | 読者も主人公と一緒に知りたい | 読者だけが先に知っている緊張感がほしい |
3つ以上が同じ側なら、そちらを選びます。決めきれないときは、三人称一元視点から始めるのがおすすめです。一人称に近い距離感で書けます。
ただし、一元視点で書き進めた途中で別の人物の視点を足すと、読者には視点ブレに見えます。視点人物を複数にするなら、最初の章のうちに「この作品は複数の視点で進む」と見せておきます。
一人称のまま、章ごとに語り手を替える書き方もあります。太宰治『人間失格』は、「私」が語る「はしがき」と「あとがき」で、主人公・葉蔵が一人称で書いた手記を挟む枠物語の形です。Web小説では、本編を主人公の一人称で書き、幕間や「〇〇side」と題した話だけ別の人物の視点に切り替える書き方も見かけます。切り替えた話では、主人公がいない場所で起きていることや、相手の本心の種明かしなど、主人公の視点では書けないことを書きます。同じ場面を別視点でなぞり直すだけの話が続くと、テンポが落ちます。
よくある迷い
一人称の語り手は、「私」「俺」「僕」のどれにすべき?
語り手の性格と年齢で決めます。「俺」は気安さや強がり、「僕」はやわらかさ、「私」はかしこまった印象や大人びた印象を与えます。地の文の一人称は原則ひとつに統一し、セリフの中でだけ相手によって使い分けます。キャラクター設定表テンプレートの「口癖/口調」の欄に一人称も書いておくと、ブレを防げます。
二人称(「あなたは」)で書いてもいい?
書けますが、読者を物語の中の人物として扱う特殊な書き方です。短編や実験的な作品で、その形式自体に意味があるときに選びます。
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