第5話 牢屋の生活
「お前の一番大切な友達を奪ったのは、国だ。だから、お前を守れるのは世界で俺だけなんだよ。なぁ、ミニ?」
Bはさらに間を詰め、ガッチリと掴んだミニの頭を引き寄せた。
お送りいただいた画像のように、逃げ場を完全に塞いだ至近距離。唇を重ねるようなものではなく、ただ相手のすべてを自分の支配下に置くための、狂気を孕んだ執着の儀式。Bは自分の頬をミニの頬へと、強く、冷酷に擦り当てた。
耳元で聞こえるBの不敵な呼吸。ミニは恐怖と、病んだ心による異常な依存のせいで、目を見開いたまま身動き一つ取れない。
頬と頬がぴったりと合わさるほどの距離で、Bが密やかに囁いたその瞬間――。
「――ガ、ハッッッ!!!?」
突如、Bの肉体が落雷に打たれたように激しく硬直した。
『ふざけるな……! ミニに……俺の弟に、これ以上変な真似をするなァァァ!!!!』
脳の最奥から、これまでで最も猛烈な、血を吐くようなぼうぼん(ぼく)の激怒の叫びが炸裂した。
自分の愛する純粋な弟が、別人格の狂気によってこれ以上ないほど境界線を越えられ、玩具のように扱われようとしている。その現実が、おとなしいはずのぼうぼんの防衛本能を完全に爆発させたのだ。
(ジ〜〜〜〜〜〜〜〜ン)
耳を劈(つんざ)くような凄まじい電磁音が脳内を駆け巡る。
「ウ、グ、ああああああッ!!! 頭が……割れるッ!!」
Bは劉のような冷徹な余裕を完全に失い、あまりの激しい頭痛に、ミニの頭を掴んだままガクガクと激しく痙攣し始めた。頬を擦り当てた姿勢のまま、Bは苦悶に顔を歪ませる。
一人の肉体を巡る、ぼうぼんとBの精神の壮絶な殴り合い。
至近距離で兄の顔が激痛と狂気で歪んでいく様を、病んだ瞳のミニはただ静かに、身動きもせず見つめていた――。
Bが鉄格子の隙間から床へと滑り込ませたのは、湯気がふわりと立ち上る器だった。
中にあるのは、炊きたての温かい白米と、具材の旨味が溶け込んだ温かい野菜スープ。冷たい牢屋の空気とは対照的な、そのあまりにも優しい温もりこそが、Bの計算し尽くされた最も冷酷な罠だった。
「どうした、ミニ。お前の大好きな友達はもういない。この冷たい世界のどこを探しても、お前にこんな温かい飯を運んでくれる人間は、目の前にいる俺しかいないんだぞ」
Bは鉄格子に寄りかかり、劉のような冷徹な余裕を浮かべながら、檻の中の弟を見下ろしている。
外の世界から完全に隔離され、絶望と孤独の寒さに震える暗闇。その中で差し出された「温かい米とスープ」は、ミニの凍りついた心に、Bへの強烈な感謝と盲目的な依存を植え付けるための決定的な凶器だった。
「お兄……ちゃん……。あったかい、よ……」
ミニは弱々しく呟き、震える手でその温もりを引き寄せた。
温かいスープを一口すするたびに、温かい白米を口に運ぶたびに、ミニの心はBという歪んだ救世主なしでは一秒も生きられない体へと作り変えられていく。自分を檻に閉じ込め、すべてを奪ったはずの兄の冷たい手が、今のミニには世界で一番温かい救いの手に見えていた。
「ククク……そうだ、温かいだろう。俺だけを頼れ。俺だけを信仰しろ。お前を生かしてやれるのは、世界で俺だけだ」
『やめてくれ……! ミニ、その温もりは偽物だ、Bに騙されないでくれ……! ぼくを出してくれ、ミニを助けさせてくれ……っ!!』
脳の奥底で、ぼうぼん(ぼく)が自身の魂を掻きむしるようにして絶叫する。
だが、その悲痛な拒絶の声も、Bの冷酷な笑い声と、ミニが静かにスープを啜る音の中にかき消されていくのだった――。
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