ヒーローズジャーニーとは?12段階を物語の例でわかりやすく解説
ヒーローズジャーニー(ヒーローズ・ジャーニー、英雄の旅)とは、主人公が日常の世界を離れ、非日常の世界で最大の試練を乗り越え、宝を持って日常へ帰ってくる物語の型です。 神話学者ジョーゼフ・キャンベルが1949年の『千の顔をもつ英雄』で世界の神話に共通する構造として示し、ハリウッドのストーリー・コンサルタント、クリストファー・ボグラーが書き手向けに12段階にまとめました。ボグラーの本の邦題から「神話の法則」とも呼ばれます。
ボグラーの12段階は次のとおりです。訳書や解説によって言い回しが少しずつ違い、「冒険への召命」「召命拒否」「戸口の通過」「試練・仲間・敵対者」などと書かれることもあります。
- 日常の世界
- 冒険への誘い
- 冒険の拒否
- 賢者との出会い
- 第一関門突破
- 試練・仲間・敵
- 最も危険な場所への接近
- 最大の試練
- 報酬
- 帰路
- 復活
- 宝を持っての帰還
12段階は地図のようなものです。削っても、順番を入れ替えても、一つの段階を何度繰り返してもかまいません。小説でいちばん役に立つのは、主人公の変化が段階を追って積み重なっているかを確かめる使い方です。
ヒーローズジャーニー12段階の一覧
| # | 段階 | 主人公に起きること | 三幕構成との対応 |
|---|---|---|---|
| 1 | 日常の世界 | ふだんの暮らしと、そこで欠けているもの・抱えている傷を見せる | 第一幕 |
| 2 | 冒険への誘い | 日常にいられなくなる出来事が起き、非日常へ呼ばれる | 第一幕 |
| 3 | 冒険の拒否 | 恐れやためらいから、行かない理由を探す | 第一幕 |
| 4 | 賢者との出会い | 導き手(メンター)から、旅立つための助言・道具・勇気を得る | 第一幕 |
| 5 | 第一関門突破 | 非日常の世界へ踏み込み、もう戻れなくなる | 第一幕の終わり |
| 6 | 試練・仲間・敵 | 新しい世界のルールを学び、仲間と敵ができる | 第二幕前半 |
| 7 | 最も危険な場所への接近 | いちばん危険な場所の入り口まで来て、備え、迷う | 第二幕前半 |
| 8 | 最大の試練 | 最大の恐怖と向き合い、死ぬ、または死んだように見える状況を経験する | ミッドポイントに置くことが多い。第二幕後半に置く解説もある |
| 9 | 報酬 | 試練を乗り越え、求めていたもの(武器、宝、知識)を手にする | 第二幕後半 |
| 10 | 帰路 | 宝を持って日常へ戻る道を選ぶ。追っ手や代償が迫る | 第三幕の入り口 |
| 11 | 復活 | 最後にもう一度死と向き合い、古い自分を捨てる選択をする | 第三幕のクライマックス |
| 12 | 宝を持っての帰還 | 日常の世界に戻り、変わった自分と宝を持ち帰る | 結末 |
最大の試練と復活の違い:どちらも「死と再生」を扱うので、書き分けに迷いやすい段階です。最大の試練は、主人公が自分の弱さや真実を突きつけられる敗北で、まだ主人公は変わりきれていません。だから報酬で気づきや手段を受け取ります。復活は、そこで得たものを使って挑む最後の試験で、主人公が変わったことを行動で示す場面です。
ボグラー自身も、12段階を三幕構成に重ねて説明しています。第一関門突破が第一幕と第二幕の境目、帰路が第三幕の始まりです。
ヒーローズジャーニーの例:自作の長編で12段階をたどる
12段階が小説の中でどう現れるかを、自作の現代ファンタジー長編で示します。
瀬戸内の小さな島で祖母の民宿を手伝う高校生の湊(みなと)。大潮の夜、沖の岩礁に、海の底へ続く石段が現れる。
1. 日常の世界:湊は17歳。母は島を出たまま戻らず、祖母と二人で民宿を切り盛りしている。島を出て進学したい気持ちを、誰にも言えずにいる。ここで読者に伝えておきたいのは、「人の世話を焼くのは得意なのに、誰かに頼るのは苦手」という湊の性格です。
2. 冒険への誘い:大潮の夜、沖の岩礁に石段と鳥居が浮かび上がり、その奥から、十年前に海で行方不明になった幼なじみの声が湊の名前を呼ぶ。
3. 冒険の拒否:湊は聞かなかったことにする。あの夏、立入禁止の岩場へ幼なじみを誘ったのは自分だった。拒否の理由は、主人公の傷とつながっているほど効きます。追いかければ、あの日と向き合うことになります。
4. 賢者との出会い:元灯台守の老人が、石段の先は「潮の向こう」と呼ばれる、海でなくしたものが流れ着く場所だと教える。老人は古いランプを渡し、「潮が満ちきる前に戻れ」と言う。賢者は人間でなくてもかまいません。祖父の日記や、一通の手紙でも務まります。役目は、主人公に旅立つための条件を渡すことです。
5. 第一関門突破:次の大潮、湊はランプを手に石段を下り、鳥居をくぐる。振り返ると、石段はもう海に沈んでいる。ここで第一幕が終わります。
6. 試練・仲間・敵:潮の向こうの町には「本当の名前を名乗った者は、町のものになる」という決まりがある。湊は、鈴の音で道を教える案内役の少女と組み、落とし物を集めて回る「浜の番人」に目をつけられる。
7. 最も危険な場所への接近:幼なじみは、番人の屋敷「沈み蔵」にいると分かる。屋敷に忍び込む準備をしながら、湊は少女と言い争う。人に頼れない湊の弱さが、ここで表に出ます。
8. 最大の試練:沈み蔵で番人に捕まり、名前を奪われかける。湊は自分が誰なのか思い出せなくなっていく。薄れる意識の中で、封じていた記憶がよみがえる。あの日、幼なじみは溺れかけた湊を岩の上へ押し上げ、自分は波にさらわれていた。全体のちょうど真ん中にあたる場面です。
9. 報酬:少女が湊の名前を呼び続け、湊は自分を取り戻す。番人の蔵から、幼なじみの名前が縫い取られた麦わら帽子を取り返し、幼なじみと再会する。湊が手にしたのは、十年間知らなかったあの日の真実です。
10. 帰路:潮が満ち始め、番人が追ってくる。三人は少女の鈴を頼りに、崩れていく町を出口の鳥居へ走る。
11. 復活:鳥居の手前で番人に追いつかれる。湊は初めて、少女と幼なじみに「力を貸してくれ」と頼み、三人でランプの火をかざして番人を退ける。けれど、もう生きていない幼なじみは鳥居をくぐれない。「湊は、自分の行きたいほうへ行け」。湊は十年間言えなかった「ごめん」と「ありがとう」を伝え、潮が満ちきる前に、自分の足で鳥居をくぐる。人に頼れなかった湊が人に頼り、人の世話ばかり焼いてきた湊が自分のために選ぶ場面です。
12. 宝を持っての帰還:朝、湊は民宿の前の浜で目を覚ます。手には、幼なじみがかぶっていた麦わら帽子。鈴の音が一度だけ聞こえ、少女も自分の町へ戻ったのだと分かる。その日の夕食のあと、湊は祖母に、島を出て進学したいと初めて話す。持ち帰った宝は、幼なじみとの和解と、自分の人生を選ぶ力です。
段階が進むにつれて、湊は少しずつ変わっていきます。冒険の拒否で心の傷が見え、最大の試練で痛みを引き受け、復活でそれまでできなかった選択に踏み切ります。第1段階と第12段階の湊の違いが、この物語のテーマになります。
キャンベル、ボグラーと「神話の法則」
- 『千の顔をもつ英雄』(ジョーゼフ・キャンベル、1949年):世界の神話を比較し、英雄の物語を「出発(出離)」「イニシエーション(試練と勝利)」「帰還」の三つの大きな段階と、17の段階に整理しました。キャンベルはこれを単一神話(モノミス)と呼んでいます。邦訳は人文書院版(1984年)と、新訳の早川書房版(2015年)があります
- 『神話の法則』(クリストファー・ボグラー):ディズニーのストーリー・アナリストだったボグラーが、キャンベルの理論を映画づくりの実践向けに12段階にまとめた本です。邦訳『神話の法則 ライターズ・ジャーニー』(ストーリーアーツ&サイエンス研究所、2002年)、新訳『作家の旅 ライターズ・ジャーニー 神話の法則で読み解く物語の構造』(フィルムアート社、2022年)
- スター・ウォーズ:ジョージ・ルーカスがキャンベルの研究から着想を得て『スター・ウォーズ』を作ったことは、ヒーローズジャーニーが広まった大きなきっかけとして知られています
「ヒーローズジャーニー」「英雄の旅」「神話の法則」は、どれも同じ型を指しています。ファンタジーの分野でよく言われる「行きて帰りし物語」(日常から異界へ行き、成長して日常へ帰る物語)とも、大きく重なる型です。
ヒーローズジャーニーを長編小説に使う方法
1. 先に3つの柱を決める。 第一関門突破、最大の試練、帰路の3つを先に決め、他の段階はその間で動かします。映画では25%・50%・75%あたりが目安です。小説、とくにWeb連載では、第一関門突破をもっと前に置きます。最初の数話で主人公を非日常へ踏み込ませるのが定石です。最大の試練をミッドポイントに置いた場合、第二幕後半では報酬がもたらす代償と反撃を書きます。宝を手にした主人公がひと息つくだけの区間にしないことです。
2. 長編は何周も回せる。 巻を重ねる作品や連載では、作品全体で大きな旅を一周しつつ、巻ごとに小さな旅を一周させる形がよく使われます。各巻の終わりは区切りとしての報酬と立て直しで、主人公は非日常の世界にとどまったまま、その状態が次の巻の出発点になります。本当の「宝を持っての帰還」は最終巻に取っておきます。周を重ねるごとに報酬を大きくし、払う代償も重くします。
3. 段階は縮めても省いてもいい。 冒険の拒否が台詞一行で済むこともあります。帰路がクライマックスに吸収される物語もあります。守るべきなのは因果です。主人公は何かを失ってから、何かを手に入れます。
4. 賢者と敵が同じ人物でもいい。 賢者や敵は役割の名前です。前半は導き手だった人物が、後半で立ちはだかる。群像劇の長編では、こうした立場の反転が第二幕の強い転機になります。
5. 外の冒険と内面の成長を連動させる。 目に見える冒険が物語の骨格を作り、主人公の心の欠けが読者の共感を生みます。書き始める前に、第1段階で主人公に何が欠けているかを書き出し、第12段階でそれをどう埋めるかを決めておきます。キャラクターの欠けや動機の整理はキャラクター設定の作り方にまとめています。
異世界転生ものとヒーローズジャーニー
Web小説で人気の異世界転生・異世界転移ものは、ヒーローズジャーニーで読むと形がよく見えます。
- 第一関門突破が冒頭に来る:転生・転移の導入では、第1〜5段階が冒頭の数ページに収まり、主人公はすぐ非日常の世界へ送られます。日常の世界が短いぶん、主人公の欠けや傷は、異世界に来てからの行動や回想で見せることになります
- 帰還しない物語:元の世界に戻らない作品では、第12段階の「帰還」が「新しい世界に居場所を作る」に置き換わります。持ち帰る先が変わるだけで、主人公が変化した結果を共同体に還元するという役割は同じです
- 削った段階は後ろに回す:冒頭で第一関門を越えさせると、冒険の拒否や賢者との出会いで描くはずだった主人公の傷や導き手との関係が抜け落ちます。それを異世界に入った後の第6段階の中に置き直すと、中盤で主人公の目的がぼやけるのを防げます
- 第6段階が長くなる:新しい世界のルール(スキル、身分、魔法)を学ぶ区間が、物語の大きな楽しみになります。試練の場面が単調になりやすいので、場面ごとに「何を望み、何が阻むか」をはっきりさせます
ヒーローズジャーニーと三幕構成の関係
二つは重ねて使えます。三幕構成は分量の比率を、ヒーローズジャーニーは各区間で主人公が経験することを受け持ちます。対応は上の一覧表のとおりで、第1〜5段階が第一幕、第6〜9段階が第二幕(最大の試練がおよそミッドポイント)、第10〜12段階が第三幕です。
日本でなじみのある起承転結に当てはめるなら、第1〜5段階が起(旅立ちまで)、第6〜7段階が承(新しい世界での試行錯誤)、第8〜10段階が転(最大の試練と局面の急変)、第11〜12段階が結(最後の対決と帰還)と考えるとバランスよく収まります。
よくある誤用3つ
12段階を1章ずつ書く。 段階ごとの分量は大きく違います。冒険の拒否は数行で足りることもあり、試練・仲間・敵が全体の3割を占めることもあります。
賢者を白いひげの老人に決めてしまう。 賢者は役割です。手紙一通、ライバル、昔の自分でも務まります。
宝を「物」にして終わる。 主人公が持ち帰るものは、日常の世界を変えるか、主人公と日常の世界の関係を変えるものにします。剣を一本持ち帰っただけでは、結末が空っぽに見えます。
使えるテンプレートと機能
- 小説プロット テンプレート:1章につき1行で、主なできごと・登場キャラクター・伏線・目標文字数を書き込む表です。主なできごとの横に12段階の番号を書き、目標文字数を合計すれば、各段階がどれだけの分量を占めているかが分かります
- LitMemoの「余白を残す衝突ビートシート」:第6段階の試練の場面は、出来事の羅列になりがちです。各シーンでキャラクターが何を望み、何が阻むかを先に決め、そのシーンがどの柱に向かう場面なのかを書いておきます。キャラクターがどう反応するかは、書くときに決めてかまいません
- 物語の要所に置く手がかりの作り方は伏線の張り方と回収のコツ、プロット全体の作り方は小説プロットの書き方5ステップへ
LitMemoのストーリープロットでは、自由に名前をつけたグループで12段階を並べられます。各項目にはキャラクター・設定・タイムラインの出来事・伏線をひもづけられ、項目からそのまま新しい話(本文の原稿)を作れます。小説プロット テンプレートから始める →
